老化の多様性・恒常性を規定する    解糖系代謝・メタボライトの探索

老化と対話する医療から新しい健康概念へ

「暦年齢」以外の老化の尺度として、「生物学的年齢(老化度)」の重要性も、叫ばれて久しい。古くより「テロメア」「酸化ストレス度」などがその有力な候補である。さらに近年、テロメア非依存性細胞老化として、「ストレス老化 (若い細胞、すなわちテロメアが長い細胞でも様々なストレスにより老化する)」も、注目されている。最新の基礎老化研究の成果の一つは、「老化の両面性」の発見であろう。例えば、「ストレス細胞老化」は「発癌抑制の生体防御機構」として元々は注目されてきた。その一方で、ストレスにより老化した細胞は周りの細胞を巻き込んで「慢性炎症」や癌化といった個体老化のイベントにも寄与する事が明らかとなり、「老化の両面性」の発見に繋がった。

「慢性炎症」とは、急性炎症(感染や傷害に対する防御あるいは修復反応)と異なり、進行が緩やかに持続する炎症であり、sterile inflammation(無菌性炎症)とも呼ばれる。すなわち、感染による免疫応答が存在しない「非感染性の持続性炎症反応」である。古くは、病理学者ウィルヒョウが癌組織に炎症細胞浸潤が認められることを報告し(1863年)、癌と慢性炎症の関連を最初に指摘した。あるいは、病理学者Russel Rossにより、動脈硬化で傷害反応仮説での炎症反応の重要性も指摘されていた。さらに最近、肥満症における白色脂肪組織でのマクロファージの炎症浸潤、肺COPD(慢性閉塞性肺疾患)の全身炎症疾患としての提唱など、多くの疾病で、非感染性炎症(つまり慢性炎症)が病態を加速させていることが、一般臨床でもよく知るところとなった。

慢性炎症と細胞老化の密接な関係が明らかになったのは、つい最近である。Adlerらの詳細な検討により、老化により活性化する転写因子として、NF-κBが見出された。老化細胞でNF-κBが活性化する理由は、抗アポトーシス能(細胞死耐性)の獲得であり、それにより、死なずに老化したままでいられる。しかしながら、NF-κBは炎症制御の鍵因子でもあるので、老化細胞で炎症が活性化する原因となる。ほぼ同時期に、Campisiらは、老化細胞は若い細胞と比較して、IL-1やIL-6などの炎症サイトカインを分泌しやすくなることを見出し、SASP (Senescence associated secretary phenotype、老化関連分泌因子)と名付けて、報告した6)。老化細胞由来のSASPは、周囲の細胞の老化や癌化促進に寄与すると考えられており、細胞老化が「慢性炎症」を通じて、個体老化を誘導する一因と考えられる。以上の知見より、老化や加齢性疾患の進展の大きな原因の一つとして、「細胞老化による慢性炎症」が想定されるようになった。「細胞老化・慢性炎症」を治療標的とする新規医療開発は、その萌芽が生まれ始めている。

新健康概念「細胞老化・慢性炎症」

老化を標的とした新規治療 セノリシス(老化細胞除去)

2011年、老化マーカーp16Ink4aが陽性の老化細胞だけを死滅させる巧妙な遺伝操作によるマウス実験が試みられ、老化細胞除去(セノリシス)による様々な臓器の老化改善が初めて報告された(Baker DJ, et al. Nature. 2011)。しかしこの実験では、早期老化を示す特殊なモデル(BubR1ハイポモーフォリックマウス)を用いており、その反響は限定的だった。
後に、老化細胞除去薬として抗アポトーシス遺伝子Bcl-2阻害薬(ABT263)が報告された(Chang J, et al. Nat Med. 2016)。ABT263は、本来は抗癌剤として開発された。が、Adlerらの見出した、老化細胞特有の抗アポトーシス能の特性を標的として、ABT263の抗Bcl-2阻害効果が再注目された。ABT263のセノリシス効果による動脈硬化やアルツハイマー症状の改善がマウスモデルで確認された(Childs et al., Science 2016, TJ. Bussian et al., Nature 2018)。老化は、人類が直面する21世紀的生命課題の一つであるが、老化予防や改善は夢物語として語られてきた。現状では実用化されたセノリシス薬は存在しないが、その可能性が現実味を帯び始めている。

老化を標的とした新規治療 セノリシス(老化細胞除去)

Topics

我々のラボでは、「老化と代謝」研究に興味のある若手(研究員および大学院生)を募集中です。

(2022年2月)

我々の研究成果が、以下の二つの国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。

(2022年2月)
  1. Hiroshi Kondoh and Eiji Hara. Targeting p21 for diabetes: Another choice of senotherapy.
    Cell metabolism
    2022 34, 1, p5-7. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2021.12.008
  2. Hiroshi Kondoh, Takayuki Teruya, Yung-Ju Chen, Yasuhide Fukuji, Mitsuhiro Yanagida. Reply to Zheng et al.: Clinical metabolomics: Detailed analysis by nontargeted method is complementary to large-scale studies. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2022 Feb 1, 119 (5) e2120693119; https://doi.org/10.1073/pnas.2120693119

我々の研究成果が、以下の国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。

(2022年1月)
  1. Hiroshi Kondoh, Takayuki Teruya, Masahiro Kameda, and Mitsuhiro Yanagida. Decline of ergothioneine in frailty and cognition impairment. FEBS Letters 2022 Jan 28. doi: 10.1002/1873-3468.14299.

熊本大学石本博士との共同研究成果が、以下の国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。

(2021年11月10日)
1) Rumi Itoyama, et al. Metabolic Shift from Aerobic Glycolysis through 3-PG Accumulation and PHGDH Induction Promotes Tumor Growth in Pancreatic Cancer. Cancer letter 2021 S0304-3835(21)00454-7. doi: 10.1016/j.canlet.2021.09.007.

我々の研究成果が、以下の2つの国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。

(2021年9月20日)

1) Masahiro Kameda, et al. Reduced uremic metabolites are prominent feature of sarcopenia, distinct from antioxidative markers for frailty. Aging 2021 13(17):20915-20934. doi: 10.18632/aging.203498.
2) Takayuki Teruya, et al. Whole blood metabolomics of dementia patients reveal classes of disease linked metabolites. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2021 118 (37) e2022857118; https://doi.org/10.1073/pnas.2022857118

亀田雅博が、第32回日本老年学会総会 合同セッション優秀賞受賞しました。

演題タイトル「網羅的血液メタボロミクスにより同定したフレイルおよびサルコペニアマーカー」
(2021年8月6日)

簡易版 フレイルチェック KFSのお知らせ(動画)を追加しました。

(2021年7月5日)

我々のラボに、甲部 優子さんが新メンバーとして加わりました。

(2021年5月6日)

我々の研究成果が、以下の国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。
T Mikawa, et al. PLoS ONE 2021 29 Apr 16(4): e0250856.

(2021年4月30日)

我々のラボに、碇 純子さんが新メンバーとして加わりました。

(2021年4月2日)

我々の研究成果が、以下の3つの国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。
1) H Kondoh, et al. Frontiers in Oncology 2021 19 March
2) M Kameda, et al. Journal of Physical Therapy Science 2021 33(3) 267-273.
3) H Kondoh, et al. Int. J. Mol. Sci. 2021, 22(1), 175

(2021年3月20日)

我々の研究成果が、以下の3つの国際学術誌に発表され、オンラインとなりました。
1) M Kameda, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA Jan 5, 2021 118;(1)
2) J Alvarez-Meythaler, et al. Frontiers in Oncology 2020 22 October
3) H Kondoh, et al. Open Biology 2020 Sep; 10(9)

(2020年12月28日)

我々のラボに、張澤鑫さんが新メンバーとして加わりました。

(2020年12月25日)

日本分子生物学会2020(京都)で、我々の企画したシンポジウム 「細胞老化から見た個体老化・加齢性疾患」が開催されました。当日の中で、最多の観衆(約200名)が参加いただきました。ありがとうございました。

(2020年12月10日)

イラストレーター ウチダヒロコ様により、我々のiScience 2020の成果のイラストが完成しました。
ホームページの概要に公開しました。

(2020年9月18日)

京大広報に近藤の随筆が掲載されました。

(2020年9月1日)

愛媛大学医学部免疫学講座山下政克教授との共同研究により、免疫細胞でのPGAM-KOマウスの成果が、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32709928/

(2020年8月24日)

我々の国際学術誌「iScience」発表成果が、京都大学研究成果のHPに公開されました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2020/200624_2.html

(2020年7月22日)

癌における解糖系代謝の新規制御機構として、PGAMの非酵素としての役割を見出し、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

(2020年7月7日)

我々の血液メタボローム研究による新規フレイルマーカーの成果が、米国科学アカデミー紀要 PNASに掲載されました。同時に京大広報、および、京都新聞にも掲載されました。

(2020年4月15日)

我々の飢餓メタボロームの論文(Teruya et al. 2019)が、2019年の約2万本のScietific Reportsジャーナル論文の中で、ダウンロード数のトップ100にランクインしました。

(2020年3月27日)

第14回京都大学東京フォーラムで、「面白い(おもろい)を探求する -老いないために、老いを知る-」をテーマに、招待講演させていただきました。 […]

(2019年12月3日)

第2回日仏老化ワークショップ(パリ)が無事終了しました。

(2019年9月5-6日)
ヒト飢餓メタボロームの論文発表

我々のヒト飢餓メタボロームの論文が、Scientific Reportsに発表され、京都大学ホームページでも取り上げられました。

(2019年1月30日)
第2回JSPS日仏老化ワークショップがパリ開催決定。9月予定
(2019年1月16日)
近藤祥司が日本老年医学会理事幹事に選ばれました。
(2018年6月16日)
第60回日本老年医学会(大会長横出正之、事務局長近藤祥司)を京都開催

参加者2000名以上の盛会で無事終了しました。関係各位の多大なご協力に感謝申し上げます。

(2018年6月16日)
第2回日本老年医学会老化および老年医学研究助成受賞

2017年6月15日 日本老年医学会 名古屋にて

(2017年08月06日)
基礎老化学会第38回秋のシンポ10月14日京大シラン会館にて

事務局は、近藤ラボが担当しています。懇親会参加希望などは、メールでコンタクトください。 最新版ポスター

(2017年08月06日)
日仏老化ワークショップ2016(京都)無事終了

10/31~11/2の3日間の日仏老化ワークショップが無事終了しました。 白熱した議論とともに参加者のご協力に […]

(2016年12月13日)
ヒト血液メタボロームによる14個の老化マーカーの同定

上記の我々の発見が、2016PNASに発表されました。 Romanas Chaleckis, Itsuo Mu […]

(2016年06月29日)
近藤祥司監訳「老化生物学」発刊。2015年8月25日予定

原著“Biology of Aging”(Roger B. McDonald著,Garland Science […]

(2015年08月17日)